憲法(2)

報道の自由、取材の自由

報道機関による報道の自由は、国民の知る権利に奉仕するものであり、21条にて保障される

取材の自由も、報道の自由を守る為に必要なものであるから21条の保障される対象ではあるが、直接保障されるものではなく、十分に尊重されるもの。

→報道機関の取材により得られたものに対する裁判所による提出命令は、報道の自由に及ぼす影響の度合い、提出命令の必要性、取材の自由が妨げられる程度などを比較衡量して決めるべき。

 

・国家機密との関係

報道機関による取材が、国家公務員法の定める「そそのかし」罪が成立するかどうか

→その手段方法が法秩序全体の精神に照らし、相当なものとして社会観念上是認されるものかどうか。→是認されれば、刑法35条で違法性は阻却される。

国家公務員法にて、公務員が職務上知ることの出来た秘密を漏らすこと(国家公務員法100条1項)、またその秘密を漏らすことをそそのかすこと(同法111条、109条12号)を禁止している

 

・名誉棄損と公益の関係

表現の自由の行使であっても、「名誉棄損罪(刑法230条)」になることはあるが、国会議員の不正の発露など、社会的価値が認められる場合もある。

 

①公共の利害に関する事実 ②公益目的 ③内容が真実である

場合は、名誉棄損罪にて処罰されない。

 

③に関しては、真実の証明が難しい場合(汚職事件のリークなど)でも、確実な資料・根拠に照らして、相当な理由のもとに、真実であると確信して書いたのであれば、真実性の証明がなかったとしても処罰されないと解釈

 

 

プライバシー権との関係

表現の自由は、プライバシー権と対することもよくあります。

 

有名人の私生活などの掲載している週刊誌など。

 

プライバシーの侵害の要件としては、

①私生活上の事実、または事実らしく受け取られるおそれ

②一般人の感受性を基準として、当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる

③一般の人々がいまだ知られていない事柄

の3要件が一般的。

 

 

・選挙運動の自由

選挙運動の自由も21条のもと保障される。

が、選挙運動が自由に放任されると腐敗を生むなどの懸念もあり、公職選挙法にて規制されている。

 

個別訪問禁止規定は、①買収や利益誘導の危険 ②感情による投票の左右 ③選挙人の迷惑 ④過当競争により候補者が忙しくなりすぎてしまう

等の理由により合憲と解釈

 

 

表現の自由の限界」

 

・二重の基準の理論

表現の自由などの精神的自由は、職業選択の自由などの経済的自由よりも、厳格に審査されるべきという考え方。

 

精神的自由を制約する法律の憲法判断については、裁判所が「積極的に介入し、厳格な審査基準」で判断。

 

経済的自由を規制する法律の憲法判断については、裁判所が介入するよりも、「国会の判断を尊重」していく。

 

・「事前抑制」と「検閲」

事前抑制とは、表現行為に先立って公権力(行政権、司法権など)がその抑制をするというもの。例外あり。(21条1項)

検閲は、この一部で、行政権が行うもので、絶対禁止。(21条2項)

 

例外事例:①事実でない ②公益目的でない ③被害の回復が困難 の場合は、例外的に事前抑制が認められる場合がある。

 

税関検査事件(最大判昭59.12.12)

海外からのわいせつな映画や書籍等の輸入が税関で止められた。

→①税関検査は検閲にあたるのでは? ②検閲とは?

 

検閲とは、行政権が主体となって思想内容等の表現物を対象とし、表現物の一部又は全部の発表を禁止する目的で、対象とされる表現物につき、網羅的一般的に発表前にその内容を審査した上で、不適当と認められるものの発表を禁止すること。

 

税関検査は、関税徴収手続きに付随して行われるものであり、思想内容等を網羅的に審査し、規制することを目的とするものではないため、検閲にはあたらない。

 

 

第一次家永教科書事件(最判平成5.3.16)

日本史研究者の家永三郎氏の教科書「新日本史」が、昭和35年の学習指導要領の改正により、申請後に教科書検定により323か所にわたる欠陥があったとして、検定不合格。

その後、修正して申請したが、条件付き合格後、再度修正して出版したので、予定よりも1年程出版が遅れたので、国家賠償訴訟を起こした。

→①教科書検定は検閲? ②どのような場合に国家賠償法上違法となるか?

 

教科書検定は、教科用図書の出版に対する事前許可としての法的性格を有するものの、検定をすることについての審査が執筆者の思想内容に及ぶものでない限り、検閲にはあたらない。

 

福祉国家として、国民に水準の高い教育を実施する責務を果たす為に、教科書検定は必要であり、出版の自由に制約があるとしても、公共の福祉を鑑みれば合憲である。

 

教科用図書検定調査審議会の判断の過程に、学説上の認識、教育状況の認識、旧検定基準に対する評価などに、看過し難い過誤があり、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、違法となる。→本件では、上記要件は認められず。

 

北方ジャーナル事件最判昭和61.6.11)

北海道知事選挙に出馬しようとしていたXに対して、「北方ジャーナル」誌が事実に基づかずに、Xを批判する記事を書いたが、これを知ったXが裁判所に出版の事前差止めを申請したところ、これに基づく仮処分となった。

これに不服の北方ジャーナル誌が表現自由を侵害されたとして、訴訟。

→①裁判所による事前差止めは検閲か? ②出版物頒布等の事前差止めの実体的要件と手続的要点は?

 

裁判所は司法権なので、検閲ではない。(検閲の主体は、行政権)

 

また、①事実でない ②公益目的でない ③被害の回復が困難 の場合は、例外的に事前抑制が認められる。

 

事前差止めを命ずる仮処分命令を発する際は、口頭弁論又は債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等について主張立証する機会を与えることが原則であるが、表現内容が実体的要件(上記3要件)を満たしている場合には、例外的に口頭弁論又は債務者の審尋は不要である。

 

本件も、3要件を満たしているとの判断により、仮処分は合憲。

 

『経済的自由』

職業選択の自由

営業の自由とは、自己の選択した職業を行う自由であり、職業選択の自由に含まれる。

 

表現の自由と比べて、より強い規制を受ける

→社会的相互関連性が強い為、公共の安全と秩序の維持を脅かすおそらがあり、福祉国家の理念を実現する為には、政策的な配慮も必要。

 

消極目的:(国民の生命・健康を守る為の規制)

①許可制:風俗営業、飲食業、貸金業など

②届出制:理容業など

③資格制:医師、薬剤師、弁護士など

積極目的:(福祉国家の理念に基づき、社会的、経済的弱者を保護する為の規制)

①特許制:電気、水道、鉄道等の公共事業

②国家独占:旧郵便事業、旧たばこ専売など

 

・薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30)

薬局の解説に適正配置を要求する薬事法は22条に違憲

違憲とする(消極目的)

許可制は、社会公共に対して弊害を防止する為の規制であり、

目的と手段の均衡を著しく失するものであり、違憲であるとの判断。

 

酒類販売免許制事件(最大平4.12.15)

酒税法10条10号の規定は、憲法22条に違憲

→合憲とする(積極目的)

「職業の許可制については、立法府の裁量を逸脱し、

著しく不合理であることが明白でない限り、

憲法22条1項に違反するものではない」とし合憲

本件は、酒税法の「その経営基盤が薄弱であると認められる場合」に該当して

免許が許可されなかったことに対する訴訟ですが、これは酒類販売業者の売り上げ代金未回収の危険を回避する為という立法目的は合理的であるという判断。

 

・公衆浴場の適正配置

これは、時代とともに、消極目的・積極目的ともに解釈としてはあるが、公衆浴場の適正配置の規制は合憲との判断。

昔は、家に風呂がないのが当たり前で、公衆浴場の転廃業を防止する為(積極目的)

また、国民保健と衛生の確保の為(消極目的)

 

 

居住・移転の自由(22条)

旅行の自由も含まれる。海外渡航の自由も22条2項に含まれる。

 

 

 

財産権の保障(29条)

具体的な財産権と、私有財産制を意味している。(財産を個人が所有することを認める制度)※著作権などの知的財産権も含まれる

 

29条2項では、財産権の限界として、公共の福祉の制約を受けることが書かれている。ちゃんと、法律で定めることとも書かれているが、この法律には「条例」も含まれる。

 

29条3項では、私有財産を公共のために用いるには、正当な補償が必要であると規定しています。(損失補償制度)

 

森林法共有林事件(最大判昭62.4.22)

共有林について、1/2以下の共有者が分割請求できないとする旧森林法186条は違憲か?

違憲とする(憲法29条2項)

あまりに細分化すると、森林の保護育成などに影響が出て、森林経営が安定せず、ひいては国民経済の発展にも影響があるということが立法目的であったが、規制の手段との合理性がないとして、違憲と判断。

(共有林の分割をしても、直ちに森林の分割化をきたすものではないし、他の形態による分割化は認めているのに対して、限度を超えた厳格な禁止規制である)

 

『人身の自由』

人の体が肉体的にも精神的にも拘束を受けないということ。

 

・奴隷的拘束からの自由(18条)

本人の意思に反して強制的に働かせられたりしない。

※消防・水防活動など、緊急の必要性がある場合に、強制的に協力を求めることは18条に反しない

 

・適正手続きの保障(31条)

国民の自由を奪ったり、刑罰を処する為には、「法律の定める手続き」が必要。

→公権力を「手続き」によって拘束することで人権を手続き的に保障するという考え

 

この手続きも「適正」なものでなければならない。31条に含まれると解釈。

 

具体的には、告知と聴聞の機会の保障。

→当事者に事前にその内容を告知し、弁解と防御の機会を与えなければならない

 

刑事手続きだけではなく、行政手続きへも準用。

→刑事手続きだけでなく、適正な手続きによる行政介入が人権保障には必要

 

成田新法事件(最大判平4.7.1)

過激派が成田国際空港付近に、「横堀要塞」なる工作物を設置して、

火炎車で管制塔内を混乱させる事件を起こし、

これに対して暴力主義的破壊活動を防止するため、

空港周辺の工作物の使用禁止や封鎖及び除去の措置を定めた

新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法」

(いわゆる「成田新法」現在の名称は

成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法」)

を施行して、工作物の使用の禁止処分を実施。

憲法31条が行政手続きにも適用されるか?

 

行政手続きにも適用される。

しかし、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を

総合衡量して決定されるべきものであって、

必ずしも告知や弁明の機会を与えなくてはならないわけではない。

 

成田新法は、諸事情を総合衡量して、

工作物等の使用禁止の命令をするにあたり、

その相手方に対して

事前に告知、弁解、防御の機会を

与える旨の規定がなくても、

憲法31条の注意に反しないとしました。

 

『被疑者の権利』

逮捕などの身体的拘束には、司法官憲の発する令状(逮捕状、勾引状、勾留状)が必要。→令状主義

令状主義の例外:現行犯逮捕 ①犯罪と犯人が明らかな為誤認逮捕のおそれが少ない

②罪証隠滅・逃亡の恐れ

 

抑留:一時的な身体的拘束、刑事訴訟法にいう逮捕など。

拘禁:より継続的なもの。刑事訴訟法にいう勾留など。

 

34条で不当に抑留・拘禁されない権利が保障されているが、被疑者だけでなく、被告人にも及ぶ。

 

捜査機関による、侵入・捜索および押収についても、令状主義。

→「一般令状」の禁止:どこで、何を差し押さえるのか明示する必要。

 

行政警察行為による、所持品検査にも、令状主義が適用。

→令状なしで所持品を強制的に開示されない。

 

『被告人の権利』

拷問および残虐な刑罰は禁止(36条)

 

「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」を有する

・公平:構成やその他において偏りや不公平のおそれのない裁判所

・迅速:不当に遅延していない裁判

・公開:その対審および判決が公開の法廷で行われる

→対審に関しては例外あり(※裁判官の全員一致にて非公開→公序良俗を害する恐れがある時)判決は絶対に公開。

 

証人審問・喚問権と弁護人依頼権(37条2項、3項)

 

不利益な供述の強要禁止(38条1項)

→黙秘権(氏名の供述は含まれない)

 

自白の証拠能力の制限(38条2項)

本人の自由な意思に基づかない自白は証拠として認められない

→また、自白だけでは有罪に出来ない(38条3項)

 

刑事不遡及と二重処罰の禁止(39条)

実行の時に適法であった行為については、刑事責任はない。

→事後法の禁止、刑事不遡及

 

すでに無罪とされた行為についても、刑事責任は問われない。

→また、同一犯罪について、重ねて刑事責任は問われない

 

刑事補償(40条)

刑事補償法:無罪判決を受けた場合、国からの補償を受ける権利